2020年1月4日土曜日

どうして日本でフルタイム共働きは浸透しないのか

どうして日本でフルタイム共働きは浸透しないのか〜世界でも珍しい「働き方」の国


 随分前から日本政府は「女性の社会進出!」「女性が輝く社会!」を謳っていますが、現実、夫婦共にフルタイムで働きながら子育てをする家庭は少ないことが、前回の連載で判明しました。
 女性のやる気がないから? いいえ、それは違います。その答えは日本企業の独特な働き方を振り返ることで見えてくるのです。

日本の「働き方」は強みでなくなった

 日本というのは、他の国にない独自の進化をみせることが多い国です。
 すっかり定着してしまったのが、「ガラケー」という言葉です。「ガラパゴス携帯」の略ですが、「ガラパゴス」というのは、まさに外界から隔絶された環境で独自の進化がみられた島ですね。
 ここで進化というのは、何か「優れたものに変わる」という意味ではなく、環境に適応する、といった意味です。ですので、ある環境に合わせて「進化」しすぎてしまった個体は、別の環境では生存できないことになります。
 このように、ガラパゴスという言葉には、単に「独自に進化(変化)」したという意味の他に、変化に直面すると生き残れない、といった意味も込められています。実際、ガラケー(あるいは高機能ガラケーを開発してきたメーカー)のプレゼンスは、Apple、Samsung、Huaweiといった海外メーカーのスマートフォンに押され、下がり続けています。
 実は、日本の「働き方」「雇用」もまたガラパゴス的進化を果たした例です。この独特の働き方は、かつては日本企業の強みでも合ったのですが、今は違います。むしろ私たちを取り巻く環境変化にうまく適応できず、さまざまな問題を引き起こしているのです。

「残業が多い」「転勤が業務命令」

 問題のうちのひとつは、日本の働き方が女性の職場進出の足かせになっている、ということです。
実際、(他のアジア社会を含む)海外の人からすれば、日本の働き方にはよく理解できないことがたくさんあります。肝心なのは、それが「残業が多い」ということだけではない、という点です。
 「日本人は国民性として勤勉なので……」のような、単純な話ではないのです。実は、独自に変化したのは、国民の性質ではなく、会社なのです。
 たとえば「転勤」。日本の、特に大企業の働き方の特徴のひとつに、転勤が多いこと、そしてそれが会社の業務命令として行われること、があります。海外の企業では、まず転勤の頻度は日本よりもかなり少なく、原則的に希望者が公募されます。
 しかし日本では、転勤は業務命令として認められていますので、会社側は基本的に自由に転勤してもらう人を選べますし、命令された側は、それを拒否すれば解雇もありえます。

日本企業は「人」に賃金を支払う

 次に「配置転換」。配置転換は、転勤を伴うものもあれば、そうではないものもあります。
 日本の会社では当たり前の配置転換ですが、これほど頻繁なのは日本の組織の特徴です。営業から総務へ、総務から経理へ、といった部署異動を指すことが多いです。配置転換も業務命令ですので、一定の合理性があれば社員は応じる必要があります。
 給与や昇給も、配置転換に対応した制度を日本企業は発達させてきました。
 欧米の多くの仕事では、賃金は仕事内容で決まります。これを「職務給」といいます。「賃金は仕事で決まる」とだけいうと、そんなの当たり前だと感じる人もいるでしょう。しかし、日本の会社、特に大企業では、「賃金は仕事で決まらない」のです。
 職務給では、賃金が「人ではなくて仕事に張り付いている」と理解してください。ですので、同じ職務内容(たとえば特定の資格を要する経理)であれば、どの会社で仕事をしても賃金は大きく変わりません。
 ですので、自分の結婚や家族の都合に合わせて働く場所を選ぶことがしやすくなります。ただ、同じ仕事内容である限り、年齢や経験が上がっても、それほど賃金は変化しません。
 これに対して日本の会社の多くでは、賃金は仕事ではなく「人」に張り付いています。したがって職務内容が異なっていても、同じ会社の中での異動であれば、あまり賃金が変わりません。これを「職能給」といいます。
 つまり、特定の能力を持っている(と評価された)人に賃金が貼り付けられるので、人が別の場所で別の仕事をしても、能力が変わらないのだから賃金も変えない、という考え方なのです。
 転勤や配置転換のたびに給料が変わってしまったら、特に下がってしまったら、みなさんは応じたくないですよね。日本の「職能給」というのは、そのための制度でもあります。
 欧米では、賃金が上がるというのは、たいてい仕事内容が変わるということです。日本企業では、昇給は人事査定、つまり「人に対する能力評価」で決まります。この評価が難しいために、実質的には年功的な運用になっていることも多いです。

転勤や配置転換をさせる3つの理由

 しかし転勤や配置転換は、そもそも何のためにあるのでしょうか? 主に3つの理由があると思われます。
 ひとつは「癒着の防止」。銀行の業務では、特定の顧客や取引先と長期的な関係を蓄積しすぎることのデメリットもありえます(融資判断が甘くなるなど)。そのため、転勤や配置転換によってそれを防ごう、というわけです。
 次に「能力形成」。さまざまな部署での仕事を経験することを通じて、抽象的な仕事能力を磨いてもらいたい、ということです。ケース・バイ・ケースでしょうが、本来は別の目的(いわゆる左遷)で配置転換をするのに、建前上の理由として語られることもあります。
 明らかに能力形成ではなさそうな異動なのに、「経験を積んでもらう」「適当なタイミングで戻ってきてもらう」などと言われることもあるでしょう。
 最後が「労働力の調整」。ある部署や事業所(支店)で人が余り気味なときに、その部署の人に相対的に忙しいところに異動してもらう、ということですね。
 日本の企業はできるだけ解雇を避けることが求められていますから、ある事業所がなくなってしまった場合でも、解雇する前に受け入れ先の事業所や関連会社を探す、ということが行われます。
 私自身は、この3つ目の目的がもっとも大きいのではないか、と考えています。というのは、癒着の防止や能力形成は、配置転換や転勤が少なくても他の手段でなんとか課題をクリアできますが、人材の過不足の調整はそうはいかないからです。
 海外の会社だと、ある事業所や部署で人が余ったり不足したりすれば、解雇や新規雇用がすぐに選択肢に入ってきます。昇進についてもそうで、管理職ポストが空いた時、日本では下からの人事異動(つまり昇進)が一般的ですが、海外企業だといきなり外から新人が入ってきて上司になることも珍しくありません。
 要するに、海外企業は組織の中と外で人が頻繁に出入りするのに対して、日本企業では人が組織のなかで頻繁に異動するわけです(下の図を参照)。

 実は、長時間労働もこの観点から説明できるのです。
 働いている方ならば実感していると思いますが、実はほとんどの仕事で、忙しい時期と比較的暇な時期があります。このとき、すでにいる人の時間外労働の増減で対応する場合と、雇用で対応する場合があります。
 日本企業は現在、正規社員の時間外労働の調整と、非正規雇用の雇い止め・雇用で対応しています。前者の調整の仕方は、日本で特徴的にみられるやり方です。

総合職は家庭に主婦(夫)がいる前提の働き方

 このように、「働く時間」「働く内容(職務内容)」「働く場所(勤務地)」の3つにおいて、会社の指示通りに動くことを受け入れるのが、いわゆる総合職です。総合職はこの3つについて会社の命令に従うのと引き換えに、安定した雇用と高い昇進のチャンスを得ることができます。
 これに対して、いわゆる「限定職」というのは、これら3つのうち、労働時間や勤務地の変更が比較的小さく抑えられる雇用です。典型的なのは、勤務場所を限定したエリア総合職や、勤務場所と職務内容の変更がきわめて稀な一般職などですね。
 子育て期の女性が利用する短時間勤務や、いわゆる「マミートラック」もこれに類する勤務形態だといえます。この場合、引き換えに賃金の低さや昇進可能性の制約などを受けることが多いです。
 海外の会社は、いってみればこの「限定職」が標準的な雇用形態なのです。ところが日本では「無限定職」が標準で、それを基準に限定職の待遇が決められます。
 まさにここに、日本の独特の「働きにくさ」があります。
 単純に言ってしまえば、日本の標準的な働き方は主婦(あるいは主夫)の存在を前提としているのです。慢性的な残業、頻繁な配置転換や転勤に対応すると、子育てや家事、介護などを担うことはできません。独身で居続けるか、結婚している人ならば、家にいてサポートしてくれる誰かが必要になってきます。
 それはそうですよね。「朝7時に家を出て夜10時に帰ってくる毎日、しかもたまに転勤がある(拒否できない)」ような大人しか家にいなければ、家事や育児をする人がいなくなってしまいます。

「働き方改革」で非正規雇用が増える?

 「残業あり」「転勤あり」の働き方が日本で一般化したのは、1960〜80年代です。この時期は、まさに女性が専業主婦化した時代でした。
 しかし共働きが増えてきた昨今、家庭の責任を多く負わされがちな女性の職場進出にとっては、「残業あり」「転勤あり」の働き方が重い足かせになっています。
 この「ガラパゴス的働き方」は、経済が安定的に成長する環境があった時代には有効に機能していました。しかし今では、労働コスト削減圧力が強くなり、組織内部での労働力の調整ではとても追いつけないケースも増えています。そのしわ寄せが、中小企業に押し付けられているのが現状です。
 皮肉なことに、「働き方改革」も、必ずしも女性の職場進出にとってありがたいものであるとは限りません。仕事の全体量を減らさないまま労働時間を短縮させても、かならずしわ寄せがどこかに来ます。
 人件費を増やさないで対応しようとすれば、非正規雇用の増加がひとつの答えになります。そして女性が家庭役割を重く持たされている以上、非正規職に就きやすいのもまた事実なのです。

離婚寸前だったのに今や円満夫婦に

離婚寸前だったのに今や円満夫婦に!「危機を乗り越えられたその理由」


何年も悩み、話し合ったけれど離婚してしまう夫婦もいれば、離婚寸前だったのに今まで以上に深い絆で結ばれる夫婦もいます。
今回は、『なぜ夫は何もしないのか なぜ妻は理由もなく怒るのか』『心が折れそうな夫のためのモラハラ妻解決BOOK』の著者であり、夫婦問題カウンセラーの高草木陽光が、2人の女性に離婚の危機に至った経緯と乗り越えられた理由を伺いました。

夫の妻ではなくて「母親」になってしまった女性

「夫が家を出て行ってしまったときに離婚を覚悟しました」。
そう語るのは、専業主婦の玲子さん(仮名・45歳)。
3つ年下の夫が休日を利用して通い始めた陶芸教室で知り合ったのがA子でした。月に2回通っていた教室がだんだんと増えていき、気付けば毎週欠かさず夫は陶芸教室に通うようになっていたそうです。
「随分と熱心だとは思いましたけれど、もともと凝り性なところがあったので、私は気にも留めていませんでした。まさか、そこで出会った女と不倫していたなんて……。
悲しいやら腹が立つやら、当時は思い切り怒りをぶつけまくっていました」。
玲子さんが夫の不倫を知ったのは、なんと夫本人からの告白でした。
「不倫」という道徳に反した行いに対して、その罪悪感に耐えきれず自ら暴露してしまう人が時々いるのですが、玲子さんの夫が、まさにその1人でした。
ある晩、突然「好きな人ができた。実は、付き合っているんだ」と言い出した夫。
その言葉の意味を理解するのに少々時間がかかりました。
「え? 何を言っているの?」。
玲子さんは混乱しながらも、驚くほど冷静に夫に質問し始めます。
しかし、自分の質問に対し、あまりにもA子についてペラペラと話しすぎる夫に無性に腹が立ってきて、目の前にあった雑誌を投げつけてしまいました。
その攻撃を避けるわけでもなく、じっとうつむいたままの夫に玲子さんは「あなたの顔を見るのもイヤ」と席を立ちます。
それから1週間後、夫は「アパートを契約してきた。しばらく頭を冷やしてくる」と言い、家を出て行ってしまうのです。
「離婚したい」と口にするわけでもなく、かと言って「A子と別れる」と約束したわけでもない夫は、一体どうしたかったのでしょう。
子どもがいない玲子さん夫婦は、結婚して15年、それなりに楽しく平和な結婚生活を送ってきました。
もともと身体が丈夫でなかった玲子さんは、結婚を機にそれまで勤めていた会社を辞めて専業主婦になりました。
終電で帰ってくることも珍しくなかった夫の身体を気遣い、食事のメニューにも気を付けていました。
部屋の掃除や片付けも毎日欠かさずして、布団も常にフカフカの状態にしておくことも忘れませんでした。
それなのに、なぜ?完璧な妻を、夫はなぜ裏切ってしまったのでしょう。
「夫が家を出て行ってから、私も自分なりに考えてみました。それで気付いたんです。私は、夫の妻ではなくて“母親”になっていたって……。
夫のためと思っていましたが、後から考えると、何もかも完璧にやりすぎてしまい、窮屈に感じていたんじゃないかと。
それに、夫は年下でおっとりしているせいもあり、いつも私が主導権を握ってアレコレと口を出しすぎていたところもあります。
夫は、母親のような妻ではなくて、恋人のような妻を望んでいたのだと気付いたら、他の女性に心を奪われてしまうのもわかるな、と思えたのです。
そのような考えに至るまで1年以上かかりましたけれど、当時は本気で離婚も考えていたんですよ。
夫が本気で不倫相手の女性を愛していて、相手の女性も本気で夫のことを愛しているのであれば、それは仕方がない。それなら私は手を引こうと思っていました」。
その後、夫はA子と別れたようですが、玲子さんと夫は別居をしながらお互いの気持ちの再確認を繰り返しました。
現在は別居を解消し、母親みたいな完璧な妻もやめて、適当で、ゆる〜い妻に徹したことで、夫は以前よりも自信に満ち溢れ優しくなったとのことです。

「ケンカをしないこと」が夫婦円満の秘訣だと思っていました

離婚の危機に陥る夫婦は、どちらか一方が何か大きな問題を起こしたり、離婚問題に進展しても当然と思える理由があったりするとは限りません。
「うちの両親は、私が高校生のときに離婚しました。ケンカばかりしている両親で、それが嫌で嫌で仕方ありませんでした。
そのせいなのか、自然とケンカをしなければ家族全員幸せでいられるという意識が刷り込まれていった気がします。結果的には、それは私の思い込みだったわけですけどね」。
こう話すのは、結婚9年目の仁美さん(仮名・37歳)。
現在でこそ、子どもを実家に預けて夫婦ふたりきりで月に1度はデートするという熱々のご夫婦ですが、今から3年前は離婚寸前の危機的状態に陥っていました。
結婚後すぐに長男を授かりましたが、出産1年後には職場復帰し、現在に至ります。
「これまで築き上げてきたキャリアも失いたくなかったし、育児も家事も手を抜きたくなかった」という強い責任感が、仁美さんを限界まで追い込むことになってしまうのです。
夫婦ゲンカを避けるために、夫に言いたいことがあっても我慢をし続けてきた仁美さんの身体に異変が起こり始めました。
不眠、めまい、頭痛、イライラ、そして激しい気分の落ち込み。朝起きられないことを夫から責められることもありましたが、それでも仁美さんは夫に心のうちを話そうとしなかったのです。
「そのときは、ケンカになるのが嫌で夫に話すとか相談するとかまったく思いつきませんでした。言い争いになるくらいなら離婚したいとか消えてしまいたいとか......そういう気持ちでした」。
仁美さんは、とうとう「このままだとあなたに迷惑をかけてしまうし、子どもにも優しくできなくなってしまいそうなので離婚してほしい」と夫に伝えたのです。
夫は、仁美さんがそこまで思い詰めていたことを初めて知ることになります。
「離婚しか現状を脱する方法はない」と思い込んでいた仁美さんに、夫は「なんでもいいから君の思っていることをすべて話してほしい。今まで苦しさに気付いてあげられずゴメン」と言ってくれたのです。
そこから仁美さんの感情は止まらなくなり、気が付けば結婚生活6年分の不満や不安を吐き出していました。
夫は最後まで話を聞き、受け止めてくれたそうです。
「私の勝手な思い込みで、言いたいことも言えない寂しい夫婦になっていたことに気が付きました。今では我慢せず、気になったことはその日のうちに話すようにしています。ケンカもしますよ」。
離婚危機に陥る原因も、危機を脱する方法も、元をたどれば「コミュニケーション」が必須だということです。
自分の考え方を改めたり、素直な気持ちを伝えたりしなければ、壊れかけた夫婦関係は破滅に向かうでしょう。
たとえ、現在離婚危機に直面していたとしても、夫婦で腹を割って話すことで、互いの思い込みや解釈の違いだと気が付けば、そこからいくらでもやり直すことができるということです。

2020年1月3日金曜日

大学生が知っておきたい「性的同意」のYESとNO

「嫌だと思いながら性行為をしていたときがあった」…大学生が知っておきたい「性的同意」のYESとNO
「嫌だと思いながら性行為をしていたときがあった」…大学生が知っておきたい「性的同意」のYESとNOの画像1
Speak Up Sophia代表で上智大学4年生の横井桃子さん

 同意のない性的言動はすべて性暴力であり、それを防ぐために「性的同意」(セクシュアル・コンセント)が必要。こうした捉え方はグローバル・スタンダードになりつつある。
●「性的同意(セクシャル・コンセント)」とは……
“全て”の性的な行為において確認されるべき同意をセクシュアル・コンセントといいます。性的な行為への参加には、お互いの「したい」という“積極的な意思表示”があることが大切です。(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション「セクシャル・コンセント ハンドブック」より)
 しかし、日本は義務教育での性教育に消極的だ。自他との性的な関わり方について人々が学ぶ機会は少ない。
 「大学のキャンパスで性的同意(セクシュアル・コンセント)を文化にする」――この目標を掲げて活動しているのが、上智大学エンパワーメントサークル「Speak Up Sophia」(以下、SUS)だ。
 SUS代表で上智大学4年生の横井桃子さんは、「性的同意」について「性暴力を防ぐことはもちろん、人間関係を見つめ直すきっかけにもなる」と話す。
 しかし「性的同意」をどのように取ればいいのかわからず、戸惑う人も多いだろう。なんとなくのコミュニケーションで同意が得られればそれでいい、ムードを壊しそうで嫌だ……といった、抵抗感を滲ませる声もネットやテレビで散見する。
 ただ、「性的同意」を取ることは、実は難しいことではない。身構える必要はないのだ。横井さんに話を聞いた。
上智大学エンパワメントサークル「Speak Up Sophia」 
上智大学で性的同意を広める活動をしているバイリンガルサークル。ワークショップなどの活動を通して啓発活動を行う。
2019年4月からは必修科目の教科書に性的同意についての内容が載せられるようになった。
Twitter<@SpeakUpSophia
Instagram<@SpeakUpSophia
Email<speakupsophia@gmail.com>

すべての性的な行為に当事者の積極的な「YES」を取る

――「Speak Up Sophia」(以下、SUS)の立ち上げについて教えてください。
横井さん:2018年の春に、私とすでに卒業した共同代表の女子学生の2人で、学内で「性的同意」のハンドブックを配るところからスタートしました。そのうち「サークルにしてもっと活動したいね」という話になって、授業後の教室でハンドブックを配りながらメンバーを集めたら、口コミで少しずつ広まって、昨年9月にサークルとして立ち上げました。
 現在は30人ほどのメンバーで、「性的同意」という考えを広めて安全なキャンパスを作るために活動をしています。
――「性的同意」の考え方とは、具体的に?
横井さん:「性的同意」とは、性にまつわることで嫌な思いをしたり、傷ついたりする人をなくすために、すべての性的な行為に対して当事者の積極的な「YES」を取ることを指します。
 たとえば、パートナーとのデートで「今日はキスまではいいけど、性行為はしたくないな」と思っても、相手との関係性を壊したくなくて「したくない」と言えずに応じた経験がある人も多いのではないでしょうか。でも、それは性行為への積極的な「YES」とは言えませんよね。
――付き合っているパートナー同士でも、性行為を“当たり前”の行為として考えるのではなく、互いの「YES」が必要ということですね。でも、面倒だと感じる人もいるでしょうね。
横井さん:すべての行為に「YES」の同意を取ることが理想ではありますが、実際には長い付き合いのパートナーであれば自然な流れで性行為することも多いと思います。
 ただ、「性的同意」が確認できる関係性とは、すべての性的な言動に対して嫌だと思ったら「NO」と言えること。誰もが自己決定権を持った環境があることが大切だという考えです。

「酔い潰れさせてお持ち帰り」を未然に防ぐ

――SUSが掲げる「性的同意をキャンパスで文化にする」とは、どういうことでしょうか。
横井さん:学生だけではなく、教員や、上智大学を訪れるすべての人が「性的同意」を知っていること。知っているだけではなく、それを実行できること。そして、性暴力の加害者や被害者にならないだけではなく、性暴力が起きそうな現場や被害に遭いそうな人を見かけたときに、それを防ぐために「第三者介入」ができる状況を目指しています。
――「第三者介入」について詳しく聞かせてください。
横井さん:たとえば、サークルの飲み会で先輩が後輩にお酒を飲ませて、わざと終電を逃させようとしている状況があるとします。その時、周囲の人たちが後輩に「一緒に帰ろう」と声をかけて助けたり、もし自分のアクションが難しければテーブルの上のコップを“うっかり”倒して気を逸らす、場合によっては周りの人や店員さんに助けを求めたりができることです。
――周囲の誰もが「性的同意」の考えを共有し、性暴力を未然に防ぐようなアクションを取れれば、キャンパスはもっと安心なものになりますね。もちろん大学だけでなく、広い社会でも。
横井さん:誰でも「あの時こう言えばよかった」「こうすればよかった」というモヤモヤがあると思うんです。その時は出来なかったとしても、次はこうすればいいんだと知って、何かできることが大切だと思っています。

性行為はしているけど、性暴力は「関係ない」?

――「性的同意」を文化にするために、SUSはワークショップなどの活動をしているんですよね。
横井さん:年に2~3回、学生向けのワークショップを実地しています。また、大学側にはワークショップの導入、性暴力被害者へのカウンセリングシステムの強化、性暴力被害についての実態調査の実地、この3つを求めてロビイング活動を行っています。
 SUSの活動に興味を持ってくださる先生方もいて、今年の春からスポーツウェルネスの教科書に「性的同意」についての一文が掲載されました。小さな一歩ですが、とても嬉しかったです。
 私はこの春に大学を卒業しますが、大学側にすべての提言を聞き入れてもらうにはまだ数年はかかると思っていて、SUSではこれからもアプローチを続けていきます。
――SUSは、InstagramやTwitterでも、性暴力の被害者や女性をエンパワメントする発信をしていますよね。
横井さん:Instagramでは、性暴力被害に遭った方の個人的なストーリーをはじめ、「#MeToo」やジェンダー問題についての意見を募ってシェアしています。
 ポストする文章は、友達の友達にインタビューをしたものだったり、DM(ダイレクトメッセージ)へ匿名で送られてきたものだったりとさまざま。SUSはSpeak Up(=声を上げる)を大切にしているので、大事なプラットフォームになっていると思います。
先日は、女性に対する暴力撲滅の国際デーの記念シンポジウムとして、性被害に耳を傾けるためのワークショップを行いました。これは上智大学のグローバル・コンサーン研究所が企画したもので、SUSは性暴力事件の体験談を男性教員や男子学生が朗読した音声を録音してそれを聴くというワークショップを担当しました。
 ただし、ワークショップへの学生の参加がまだまだ少ないことは残念です。SUSでは学内にポスターを貼ったり、Twitterを使って告知したりしているのですが、学生の興味を引くのはなかなか難しいなと感じています。
――性暴力にまつわる問題への興味や関心が少ないのでしょうか。自分事にならないというか。
横井さん:性暴力と聞くと、強姦神話(※)などの影響もあるのか、どうしても自分事として考える学生が少ない印象があります。
 でも、SUSのワークショップで「パートナーが避妊具をつけてくれないことも性暴力に含まれるよ」と伝えると、学生からは「あっ、じゃあ私も性暴力を受けたことある」「嫌だと思いながら性的な関係を持っていた時があった」という反応が多くあります。
(※)性暴力の被害に対する誤解。レイプ被害に遭うのは短いスカートを履いていたから、夜道を歩いていたから、などというステレオタイプな認識のこと
――自分がしている性行為も、性暴力と地続きの可能性があると認識できるようになるんですね。それにしても、性行為以外の局面では、人と人との関係で「同意」を確かめることってとても多いですよね。
横井さん:たとえば、パートナーや友人と一緒にランチに行く時は「何が食べたい?」と聞いて、お互いの意見を擦り合わせますよね。でも、性的な話になるとなぜかそれが難しいことになってしまっています。
 日本には、性にまつわることはなんとなく話しづらいという雰囲気があって、性行為について話すこともタブー視されているという現状があります。それには性教育の不足などさまざまな背景があって、日本には「性的同意」の概念が広がる土壌ができあがっていないと感じています。
 就活セクハラの問題など、社会に対してモヤモヤすることは多いのですが、社会を変えるために私が今できることは、大学で「性的同意」の概念を広めること。
 先ほど話した「第三者介入」のように、「性的同意」について理解している学生が社会に出たら、その職場で性暴力やハラスメントが起こることを防ぐこともできるようになりますよね。そういう人たちが将来的に意思決定の場に参加するようになったら、社会的なインパクトも大きいし、きっと下の世代にも伝わっていくと思います。SUSの活動を通して、少しずつ変えて行けたら。

「男は狼だから」は男性にとても失礼

「嫌だと思いながら性行為をしていたときがあった」…大学生が知っておきたい「性的同意」のYESとNOの画像3
――就活セクハラ対策を訴えたのも学生でしたが、最近は大学生の間で、性にまつわる問題に声を上げるムーブメントがあるように感じています。
横井さん:もともと、私が「性的同意」を学ぶきっかけになったのは、フリージャーナリストの伊藤詩織さんの著書『ブラックボックス』(文藝春秋)を読んで、この社会に対して「なんでこんなことが起こるんだ」と怒りを感じたことでした。
 また、SUSを立ち上げようと思ったのは、「ちゃぶ台返し女子アクション」(通称「ちゃぶ女」)というNPOが製作する「性的同意ハンドブック」を読んだこともきっかけです。
 「ちゃぶ女」を通じて早稲田や東大、創価などの各学校に「性的同意」サークルが立ち上がっています。定期的に勉強会を開いて情報交換しているのですが、大学ごとに抱えている問題は違っていて。
――たとえばどんな違いが?
横井さん:上智には帰国子女や留学経験があって、もともとフェミニストであることに抵抗のない学生も多いので、SUSのメンバー集めはそこまでの苦労はなかったんです。 
 ただ、上智はカトリック系の大学なので、そもそも婚前交渉がNGという価値観があります。「性的同意」について広めたくても、性行為についての話というだけで大学側に拒否反応を示されることもあって、他校よりも大学側への提言がしづらいという問題がありますね。
 でも、私は「性的同意」を学ぶことは、自分の身を守るための知識をつけることだと思うし、相手を尊重する方法を学ぶことだと思うんです。
 自分に「NO」と言える選択肢があると知ることはすごくエンパワメントされますし、人間関係を見つめ直すきっかけにもなる。それは、婚前交渉をしない選択をする人にとっても、重要なことじゃないのかなと思います。
――学生さんたちの間で「性的同意」が広まることは、とても意義のあることですね。
横井さん:でも、私も就活中に学生同士で「何を勉強してた?」「将来何がしたいの?」って話になったときに、ジェンダーやフェミニズムについて話すと、「えっ?」という反応をされたり「面倒臭いヤツだ」という扱いを受けたりしたこともあって。SUSの活動について話すのを躊躇ってしまう場合もあるんです。
――フェミニズムやジェンダーの問題に関心の高い人は増えている一方で、拒否感を抱く人が一定数いることもたしかですよね。
横井さん:女性は性的な話をしちゃいけないとか、そういうステレオタイプの影響もあるんだと思います。
 それは女性だけではなくて、たとえば日本には「男は浮気するもの」「男は狼だから」という、男性を語る古くからの言葉がありますよね。英語にも「boys will be boys」(=男はいくつになっても少年)って言葉があります。
 でも、浮気しない人や性欲をコントロールできる男性だってたくさんいるんだから、そう決めつけるのは男性にとても失礼なことじゃないですか?
――性にまつわる偏見はとても多いと感じます。
横井さん:私もSUSの活動をしていても、自分の中に意識していないジェンダーにまつわる偏見やミソジニーを感じることはあるんです。そういう刷り込みをまずは自覚して、意識的に「unlearn」(=学び落とし。捨て去ること)していくことが大切ではないでしょうか。

その時代に生きた人々の息づかいが感じられる写真集に

1985年~1986年の大阪で撮影された1000枚超ものモノクロ写真が一挙公開、その時代に生きた人々の息づかいが感じられる写真集に 2020年2月8日、 kouichi morimoto さんが1985年から1986年ごろに大阪で撮影した1000枚もの写真を、写...