2020年1月3日金曜日

大学生が知っておきたい「性的同意」のYESとNO

「嫌だと思いながら性行為をしていたときがあった」…大学生が知っておきたい「性的同意」のYESとNO
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Speak Up Sophia代表で上智大学4年生の横井桃子さん

 同意のない性的言動はすべて性暴力であり、それを防ぐために「性的同意」(セクシュアル・コンセント)が必要。こうした捉え方はグローバル・スタンダードになりつつある。
●「性的同意(セクシャル・コンセント)」とは……
“全て”の性的な行為において確認されるべき同意をセクシュアル・コンセントといいます。性的な行為への参加には、お互いの「したい」という“積極的な意思表示”があることが大切です。(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション「セクシャル・コンセント ハンドブック」より)
 しかし、日本は義務教育での性教育に消極的だ。自他との性的な関わり方について人々が学ぶ機会は少ない。
 「大学のキャンパスで性的同意(セクシュアル・コンセント)を文化にする」――この目標を掲げて活動しているのが、上智大学エンパワーメントサークル「Speak Up Sophia」(以下、SUS)だ。
 SUS代表で上智大学4年生の横井桃子さんは、「性的同意」について「性暴力を防ぐことはもちろん、人間関係を見つめ直すきっかけにもなる」と話す。
 しかし「性的同意」をどのように取ればいいのかわからず、戸惑う人も多いだろう。なんとなくのコミュニケーションで同意が得られればそれでいい、ムードを壊しそうで嫌だ……といった、抵抗感を滲ませる声もネットやテレビで散見する。
 ただ、「性的同意」を取ることは、実は難しいことではない。身構える必要はないのだ。横井さんに話を聞いた。
上智大学エンパワメントサークル「Speak Up Sophia」 
上智大学で性的同意を広める活動をしているバイリンガルサークル。ワークショップなどの活動を通して啓発活動を行う。
2019年4月からは必修科目の教科書に性的同意についての内容が載せられるようになった。
Twitter<@SpeakUpSophia
Instagram<@SpeakUpSophia
Email<speakupsophia@gmail.com>

すべての性的な行為に当事者の積極的な「YES」を取る

――「Speak Up Sophia」(以下、SUS)の立ち上げについて教えてください。
横井さん:2018年の春に、私とすでに卒業した共同代表の女子学生の2人で、学内で「性的同意」のハンドブックを配るところからスタートしました。そのうち「サークルにしてもっと活動したいね」という話になって、授業後の教室でハンドブックを配りながらメンバーを集めたら、口コミで少しずつ広まって、昨年9月にサークルとして立ち上げました。
 現在は30人ほどのメンバーで、「性的同意」という考えを広めて安全なキャンパスを作るために活動をしています。
――「性的同意」の考え方とは、具体的に?
横井さん:「性的同意」とは、性にまつわることで嫌な思いをしたり、傷ついたりする人をなくすために、すべての性的な行為に対して当事者の積極的な「YES」を取ることを指します。
 たとえば、パートナーとのデートで「今日はキスまではいいけど、性行為はしたくないな」と思っても、相手との関係性を壊したくなくて「したくない」と言えずに応じた経験がある人も多いのではないでしょうか。でも、それは性行為への積極的な「YES」とは言えませんよね。
――付き合っているパートナー同士でも、性行為を“当たり前”の行為として考えるのではなく、互いの「YES」が必要ということですね。でも、面倒だと感じる人もいるでしょうね。
横井さん:すべての行為に「YES」の同意を取ることが理想ではありますが、実際には長い付き合いのパートナーであれば自然な流れで性行為することも多いと思います。
 ただ、「性的同意」が確認できる関係性とは、すべての性的な言動に対して嫌だと思ったら「NO」と言えること。誰もが自己決定権を持った環境があることが大切だという考えです。

「酔い潰れさせてお持ち帰り」を未然に防ぐ

――SUSが掲げる「性的同意をキャンパスで文化にする」とは、どういうことでしょうか。
横井さん:学生だけではなく、教員や、上智大学を訪れるすべての人が「性的同意」を知っていること。知っているだけではなく、それを実行できること。そして、性暴力の加害者や被害者にならないだけではなく、性暴力が起きそうな現場や被害に遭いそうな人を見かけたときに、それを防ぐために「第三者介入」ができる状況を目指しています。
――「第三者介入」について詳しく聞かせてください。
横井さん:たとえば、サークルの飲み会で先輩が後輩にお酒を飲ませて、わざと終電を逃させようとしている状況があるとします。その時、周囲の人たちが後輩に「一緒に帰ろう」と声をかけて助けたり、もし自分のアクションが難しければテーブルの上のコップを“うっかり”倒して気を逸らす、場合によっては周りの人や店員さんに助けを求めたりができることです。
――周囲の誰もが「性的同意」の考えを共有し、性暴力を未然に防ぐようなアクションを取れれば、キャンパスはもっと安心なものになりますね。もちろん大学だけでなく、広い社会でも。
横井さん:誰でも「あの時こう言えばよかった」「こうすればよかった」というモヤモヤがあると思うんです。その時は出来なかったとしても、次はこうすればいいんだと知って、何かできることが大切だと思っています。

性行為はしているけど、性暴力は「関係ない」?

――「性的同意」を文化にするために、SUSはワークショップなどの活動をしているんですよね。
横井さん:年に2~3回、学生向けのワークショップを実地しています。また、大学側にはワークショップの導入、性暴力被害者へのカウンセリングシステムの強化、性暴力被害についての実態調査の実地、この3つを求めてロビイング活動を行っています。
 SUSの活動に興味を持ってくださる先生方もいて、今年の春からスポーツウェルネスの教科書に「性的同意」についての一文が掲載されました。小さな一歩ですが、とても嬉しかったです。
 私はこの春に大学を卒業しますが、大学側にすべての提言を聞き入れてもらうにはまだ数年はかかると思っていて、SUSではこれからもアプローチを続けていきます。
――SUSは、InstagramやTwitterでも、性暴力の被害者や女性をエンパワメントする発信をしていますよね。
横井さん:Instagramでは、性暴力被害に遭った方の個人的なストーリーをはじめ、「#MeToo」やジェンダー問題についての意見を募ってシェアしています。
 ポストする文章は、友達の友達にインタビューをしたものだったり、DM(ダイレクトメッセージ)へ匿名で送られてきたものだったりとさまざま。SUSはSpeak Up(=声を上げる)を大切にしているので、大事なプラットフォームになっていると思います。
先日は、女性に対する暴力撲滅の国際デーの記念シンポジウムとして、性被害に耳を傾けるためのワークショップを行いました。これは上智大学のグローバル・コンサーン研究所が企画したもので、SUSは性暴力事件の体験談を男性教員や男子学生が朗読した音声を録音してそれを聴くというワークショップを担当しました。
 ただし、ワークショップへの学生の参加がまだまだ少ないことは残念です。SUSでは学内にポスターを貼ったり、Twitterを使って告知したりしているのですが、学生の興味を引くのはなかなか難しいなと感じています。
――性暴力にまつわる問題への興味や関心が少ないのでしょうか。自分事にならないというか。
横井さん:性暴力と聞くと、強姦神話(※)などの影響もあるのか、どうしても自分事として考える学生が少ない印象があります。
 でも、SUSのワークショップで「パートナーが避妊具をつけてくれないことも性暴力に含まれるよ」と伝えると、学生からは「あっ、じゃあ私も性暴力を受けたことある」「嫌だと思いながら性的な関係を持っていた時があった」という反応が多くあります。
(※)性暴力の被害に対する誤解。レイプ被害に遭うのは短いスカートを履いていたから、夜道を歩いていたから、などというステレオタイプな認識のこと
――自分がしている性行為も、性暴力と地続きの可能性があると認識できるようになるんですね。それにしても、性行為以外の局面では、人と人との関係で「同意」を確かめることってとても多いですよね。
横井さん:たとえば、パートナーや友人と一緒にランチに行く時は「何が食べたい?」と聞いて、お互いの意見を擦り合わせますよね。でも、性的な話になるとなぜかそれが難しいことになってしまっています。
 日本には、性にまつわることはなんとなく話しづらいという雰囲気があって、性行為について話すこともタブー視されているという現状があります。それには性教育の不足などさまざまな背景があって、日本には「性的同意」の概念が広がる土壌ができあがっていないと感じています。
 就活セクハラの問題など、社会に対してモヤモヤすることは多いのですが、社会を変えるために私が今できることは、大学で「性的同意」の概念を広めること。
 先ほど話した「第三者介入」のように、「性的同意」について理解している学生が社会に出たら、その職場で性暴力やハラスメントが起こることを防ぐこともできるようになりますよね。そういう人たちが将来的に意思決定の場に参加するようになったら、社会的なインパクトも大きいし、きっと下の世代にも伝わっていくと思います。SUSの活動を通して、少しずつ変えて行けたら。

「男は狼だから」は男性にとても失礼

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――就活セクハラ対策を訴えたのも学生でしたが、最近は大学生の間で、性にまつわる問題に声を上げるムーブメントがあるように感じています。
横井さん:もともと、私が「性的同意」を学ぶきっかけになったのは、フリージャーナリストの伊藤詩織さんの著書『ブラックボックス』(文藝春秋)を読んで、この社会に対して「なんでこんなことが起こるんだ」と怒りを感じたことでした。
 また、SUSを立ち上げようと思ったのは、「ちゃぶ台返し女子アクション」(通称「ちゃぶ女」)というNPOが製作する「性的同意ハンドブック」を読んだこともきっかけです。
 「ちゃぶ女」を通じて早稲田や東大、創価などの各学校に「性的同意」サークルが立ち上がっています。定期的に勉強会を開いて情報交換しているのですが、大学ごとに抱えている問題は違っていて。
――たとえばどんな違いが?
横井さん:上智には帰国子女や留学経験があって、もともとフェミニストであることに抵抗のない学生も多いので、SUSのメンバー集めはそこまでの苦労はなかったんです。 
 ただ、上智はカトリック系の大学なので、そもそも婚前交渉がNGという価値観があります。「性的同意」について広めたくても、性行為についての話というだけで大学側に拒否反応を示されることもあって、他校よりも大学側への提言がしづらいという問題がありますね。
 でも、私は「性的同意」を学ぶことは、自分の身を守るための知識をつけることだと思うし、相手を尊重する方法を学ぶことだと思うんです。
 自分に「NO」と言える選択肢があると知ることはすごくエンパワメントされますし、人間関係を見つめ直すきっかけにもなる。それは、婚前交渉をしない選択をする人にとっても、重要なことじゃないのかなと思います。
――学生さんたちの間で「性的同意」が広まることは、とても意義のあることですね。
横井さん:でも、私も就活中に学生同士で「何を勉強してた?」「将来何がしたいの?」って話になったときに、ジェンダーやフェミニズムについて話すと、「えっ?」という反応をされたり「面倒臭いヤツだ」という扱いを受けたりしたこともあって。SUSの活動について話すのを躊躇ってしまう場合もあるんです。
――フェミニズムやジェンダーの問題に関心の高い人は増えている一方で、拒否感を抱く人が一定数いることもたしかですよね。
横井さん:女性は性的な話をしちゃいけないとか、そういうステレオタイプの影響もあるんだと思います。
 それは女性だけではなくて、たとえば日本には「男は浮気するもの」「男は狼だから」という、男性を語る古くからの言葉がありますよね。英語にも「boys will be boys」(=男はいくつになっても少年)って言葉があります。
 でも、浮気しない人や性欲をコントロールできる男性だってたくさんいるんだから、そう決めつけるのは男性にとても失礼なことじゃないですか?
――性にまつわる偏見はとても多いと感じます。
横井さん:私もSUSの活動をしていても、自分の中に意識していないジェンダーにまつわる偏見やミソジニーを感じることはあるんです。そういう刷り込みをまずは自覚して、意識的に「unlearn」(=学び落とし。捨て去ること)していくことが大切ではないでしょうか。

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