日本の子どもは睡眠時間が世界一短い。2017年に17の国と地域で行われた調査では、昼夜合計で最下位だった。1位のニュージーランドとの差は2時間近く。医師の森田麻里子さんは「こうした事実は医療者や子どもの保育に関わるプロの間でもほとんど知られていない」と指摘する――。
※本稿は、森田 麻里子『東大医学部卒ママ医師が伝える 科学的に正しい子育て』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■知識がないまま諦める親は多い
子どもの仕事は、食べる(飲む)こと、遊ぶこと、寝ること。
何を食べさせるか、何を飲ませるか、どんな遊びをさせるかについては、さまざまな情報があります。
一方で、睡眠についてはどうでしょう。
子どもをどのくらいの時間、どんな風に寝かせてあげればよいか、また安全な寝室環境の作り方について、知る機会はほとんどないと思います。
夜泣きや寝ぐずり、夜ふかしや夜驚症など睡眠のトラブルで困っているママ・パパは多いのに、あまり情報にふれる機会はありません。そして、ほとんど知識のないまま、子どもだから仕方ないと諦めてしまうようです。
睡眠のトラブルは、実は改善できるものも多いのですが、そのことは医療者や子どもの保育に関わるプロの間でもほとんど知られていないように感じます。
私は息子がなかなか寝なくて困った経験から、子どもの睡眠について特に力を入れて発信し、診療も行っています。
ここでは、乳幼児に関わる全ての方に知っていただきたい、子どもの睡眠の基本についてお話ししていきたいと思います。
■「眠くて泣いている」ことがある
赤ちゃんと睡眠
お昼寝の時間や回数は厳守する×NG!
お昼寝の時間や回数は厳守する×NG!
赤ちゃんはすやすやぐっすり眠るもの、私も出産前はそんなイメージを持っていました。「寝かしつけ」という単語を聞くけれど、いったい寝かしつけって何だろう、眠くなれば寝るんじゃないの? そんな風に考えていたのです。
しかし、現実は違いました。生まれた直後は一日中寝てばかりかもしれませんが、そのうちに起きている時間が増えてきます。赤ちゃんはよく泣くものですが、いくらおっぱいやミルクを飲ませても、おむつを替えても、全然泣き止まないと参ってしまいます。
実は、よく泣く赤ちゃんは、「眠くて泣いている」ことがあるのです。
大人なら、眠れない夜は温かいお茶を飲んでみたり、お風呂にゆっくりつかったり、読書をしてみたり、はたまた羊を数えてみたり、さまざまな工夫を自分ですることができます。時計を見て、そろそろ寝ないと明日に響くな、なんて理性的に考えることもできます。
でも、赤ちゃんはそうではありません。ちょっと疲れてきたな、少し眠りたいなと思っても、それを伝えることもできないし、自分で寝室に行くことさえできません。
■WHOが推奨する赤ちゃんの睡眠時間
そろそろ寝る時間かなと察知してあげたり、眠りやすい環境を整えてあげたり、周りの大人が適度にサポートする必要があります。
赤ちゃんの脳の機能は大人に比べて未熟で、特に欲求をコントロールする前頭葉という部分はまだまだ発展途上です。睡眠不足になるとますます脳の働きが落ちて、眠りたいという欲求が満たされない不快感を爆発させて泣いてしまいます。これが寝ぐずりです。本当は眠いのに、眠いせいで泣いてしまい、ますます眠れなくなるという悪循環に入ってしまうのです。
赤ちゃんや幼児がどのくらい寝る必要があるかは、なかなか知られていませんが、実はWHOも推奨を出しています。
それによると、0〜3カ月は14〜17時間、4〜11カ月は12〜16時間、1〜2歳は11〜14時間、3〜5歳は10〜13時間です。これはお昼寝も含めた合計時間になります。アメリカ国立睡眠財団も、ほぼ同じ時間の推奨です。もちろん個人差はありますが、これより明らかに睡眠時間が短い場合は、赤ちゃんは眠くないのではなく、本当は眠いのにうまく眠れていないのかもしれません。
■日本の子どもの睡眠時間は17の国と地域で最下位
実は、日本は世界の中でも睡眠時間が短い国です。経済協力開発機構がまとめた2019年のデータでは、日本の大人の平均睡眠時間は7時間22分で、調査国中もっとも短いことがわかっています。
2010年に発表されたアメリカの研究では、世界の17の国と地域(中国、香港、インド、インドネシア、韓国、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ、ベトナム、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカ)の3カ月〜3歳までの子どもの睡眠時間を調査しています。その結果、日本の子どもの睡眠時間の平均は昼夜合計で11.6時間、なんと最下位だったのです。ちなみに1位は平均13.3時間のニュージーランドで、日本の子どもより2時間近く長く寝ていました。
赤ちゃんや幼児の睡眠不足は、成長に悪影響を及ぼすという研究結果もあります。
たとえば2015年に発表されたノルウェーの調査結果では、1歳半の時に総睡眠時間が13時間以下だったり夜中に何回も起きたりする子では、問題行動が多く、5歳になってもその影響が残っていることが明らかになりました。特に、睡眠時間が11時間未満の子や夜中に3回以上起きる子は、情緒発達の問題や問題行動が1.5〜3倍に増加していたのです。
また、アメリカのグループは、肥満と睡眠不足の関係を明らかにしました。この研究では、約1000人の子どもを対象に、生後6カ月から7歳までの間、定期的に睡眠時間を調査し、7歳の時点での肥満度(BMI)との関係を調べています。その結果、慢性的に睡眠不足の子は、十分な睡眠をとっていた子に比べて2.6倍も肥満が多かったのです。
■お昼寝の回数と時間は「目安」でいい
では、実際にどのくらいのお昼寝や夜の睡眠をとらせてあげればよいのでしょうか?
先にご紹介したような睡眠不足が成長に与える影響の研究結果を総合すると、生後3カ月から小学校に入るまでの子どもの夜の睡眠時間は、10時間以上あると望ましいようです。目安としては10〜12時間が適切でしょう。
お昼寝の長さや回数は個人差がありますが、1995年のアメリカの研究で、子どもたちのお昼寝の回数や長さを調査したものがあります。それによると、生後6カ月では1日平均2.2回で3.5時間、1歳では1.86回で3時間、2歳では1.07回で2.3時間、5歳では0.43回で1.6時間のお昼寝をしていました。
このような調査結果や経験から考えると、1歳までのお子さんなら1日2〜3回、1歳2、3カ月頃からは1日1回のお昼寝が目安です。お昼寝の回数や時間は絶対守らなければならないものではありませんが、目安として参考にしていただけたらと思います。目安より多少睡眠が少なくても、赤ちゃんが日中も機嫌よく過ごし、寝つきも寝起きもよくて夜ぐっすり眠れているなら問題はありません。中には1回のお昼寝が30分程度とどうしても短めになり、疲れすぎて機嫌が悪くなってしまう赤ちゃんもいます。そんなときは、お昼寝の回数を増やしてあげることで、改善することもあります。
----------
森田 麻里子(もりた・まりこ)
医師
Child Health Laboratory代表・昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤医師。1987年、東京都生まれ。2012年、東京大学医学部医学科卒業。亀田総合病院での初期研修を経て、2014年、仙台厚生病院麻酔科、2016年より南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。2017年に第一子となる男の子を出産。自身が子どもの夜泣きに悩んだことから、睡眠についての医学研究のリサーチを始め、赤ちゃんの健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。
医師
Child Health Laboratory代表・昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤医師。1987年、東京都生まれ。2012年、東京大学医学部医学科卒業。亀田総合病院での初期研修を経て、2014年、仙台厚生病院麻酔科、2016年より南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。2017年に第一子となる男の子を出産。自身が子どもの夜泣きに悩んだことから、睡眠についての医学研究のリサーチを始め、赤ちゃんの健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。
0 件のコメント:
コメントを投稿