他人のために行動すると肉体の痛みが緩和されると実験で示される
他人に親切にする行為やボランティアに対して「何のために?」と疑問に思ったことがある人もいるはず。見返りを求めない親切は時に本人にとって損失を生み出すようにも思えますが、新たな研究では、「他人のための行動」が行動した本人の肉体的な痛みを緩和することが複数の実験で示されました。
2019年に発表された研究では、「他人の幸福を願う」という行為によって不安が減少し、共感性が増し、他者とのつながりを感じるようになることが示されました。このように、他人に対する優しい思いがドーパミンやオキシトシンといった神経伝達物質の分泌を促すことはこれまでも認められてきたところです。北京大学の心理学・認知科学部の研究者たちはここから一歩踏み出し、他人のために行動する利他的行動が本人の肉体的な痛みを緩和するかを調査しました。
この仮説を調べるため、研究者は287人の被験者に対し、さまざまなシナリオを用いて4つの実験を行いました。
実験の1つでは、地震が起こった後に献血を行った人は、習慣として献血を行っている人に比べて、太い針を使った献血で感じる痛みが小さいことが示されました。また、別の実験では被験者に任意で子どもや出稼ぎ労働者のためのハンドブックを改訂してもらったところ、ボランティア活動を行った人は行っていない人に比べて冷たい外気にさらされた時に痛みを感じづらかったとのこと。
さらに、慢性的な痛みを抱えるがん患者を集めて「自分のため」あるいは「他人のため」に治療センターの掃除を依頼したところ、他人のために掃除を行った人は傷みのレベルが下がったそうです。このとき、自分のために掃除を行った人は、他人のために行った人に比べて痛みの緩和効果が62%以上少なかったと研究者は発表しています。
最も効果が顕著に示されたのは、「孤児を助けるために寄付をする」という実験。この実験では「寄付をする」という選択をした人に「この寄付がどのくらい役立つと思いますか」と尋ね、その後、腕に電気ショックを与えた状態で脳をMRIスキャンしました。
すると、寄付を行った人の脳は、行わなかった人に比べ、電気刺激に対して反応しづらいという結果に。またこのとき、「自分の利他的行動が人の助けになった」と信じていればいるほど、痛みに対する脳の反応も小さくなったそうです。
最も効果が顕著に示されたのは、「孤児を助けるために寄付をする」という実験。この実験では「寄付をする」という選択をした人に「この寄付がどのくらい役立つと思いますか」と尋ね、その後、腕に電気ショックを与えた状態で脳をMRIスキャンしました。
すると、寄付を行った人の脳は、行わなかった人に比べ、電気刺激に対して反応しづらいという結果に。またこのとき、「自分の利他的行動が人の助けになった」と信じていればいるほど、痛みに対する脳の反応も小さくなったそうです。
「何世紀にもわたって、科学者は『なぜ人間は損失を被ってまで他人を助けるのか、これは行為者にとってどういう意味があるのか』という疑問について考えてきました」「直近の研究では利他的な行動を行った人は、直接的あるいは間接的に、将来発生する損失の埋め合わせを受け取ることを示してきました。私たちの研究は、利他的な行動が、『肉体的な痛み』のような深いな状況の中で、どのように行為者の感覚に対して影響するのかを示しています」と研究者は論文で述べました。