みなさんは、共働きと言うと、どんなイメージを思い浮べますか?「子どもを保育園に預けながら働く若い夫婦」「夫婦ともにバリバリ働くパワーカップル」「夫は正社員で、妻はパートで働く夫婦」など、さまざまな夫婦を思い浮かべるのでしょう。
政府統計によると、1990年代半ばから、共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回ったそうですが(図表1)、この統計では、夫婦ともに少しでも収入があれば「共働き世帯」としカウントされています。
男性の働き方にはあまり大きな違いはありませんが、女性の働き方は多様です。働き方が違っても、皆、同じ「共働き世帯」とされると、違和感を持つ人もいるのではないでしょうか。そこで、妻の状況に注目して、この「共働き世帯」の内訳を詳しく見ていきたいと思います。
妻の年代や家族構成は?
共働き世帯の妻の働き方を見る前に、まず、年代や家族構成などを確認しましょう。妻の年代で最も多いのは45~54歳(31.0%)で、次に、35~44歳(28.7%)、55~64歳(17.0%)と続きます(図表2)。
家族形態は、夫婦と子どもで暮らす核家族が約6割、夫婦のみで暮らすDINKSが3割弱、残りの1割程度は夫婦と親と子どもで暮らす三世代同居か、夫婦と親で暮らしています。
子どもの年齢は、末子の年齢分布を見ると、未就学児(0~6歳)が約3割、小学生(7~12歳)が約2割、中高生(13~17歳)が約2割、18歳以上が約3割となっています(図表3)。18歳以上を除けば、子どもの年齢が低いほど、全体に占める割合は高まっています。
これは、低年齢の子どもほど、夫婦の1人目の子で、妻が出産後も退職せずに働き続けているためでしょう。また、女性の社会進出がより進んでいる若い母親が多いためでしょう。
妻の労働時間は?
次に、共働き世帯の妻の労働時間について見ていきます。
ところで、「労働基準法」では、実は、パートタイムとフルタイムの区別に明確な定義はありません。厚生労働省によると、パートタイム労働者とは、「パートタイム労働法」で定義されている短時間労働者のことで、あくまで1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用されている通常の労働者と比べて短い労働者を指すだけのようです*1。
ですので、ここでは仮に、1日当たり7時間×平日5日=週当たり35時間を目安に、週当たりの労働時間が35時間未満をパートタイム、35時間以上をフルタイムとして、共働き世帯の妻の状況を見ていきます。
共働き世帯の妻の労働時間は、全体ではパートタイムが57.9%、フルタイムが42.0%(図表4)。
近年の「女性の活躍推進」政策の後押しもあり、M字カーブの底上げが進んでいます。都市部では保育園の待機児童問題が社会問題化。フルタイムで働く妻は増えているのでしょうけれど、働く女性が全体的に増えているためか、現在のところ、過半数はパートタイムで働く妻となっています。
妻の年齢別には、パートタイムは15~24歳4割台で比較的少ないのですが、25歳~64歳では6割程度となっています。子育て中が増える年代では、家庭を重視した働き方をする女性が増えるのでしょう。
家族構成別には、同じように子どもがいても、核家族世帯ではパートタイムは62.4%ですが、三世代同居では50.0%半数にとどまり、1割以上の差があります。祖父母の手助けを得て、フルタイムで働く妻(母)が多いのでしょう。また、三世代同居の場合、核家族と比べて、育児休業からの復帰も早い傾向もあります。
*1 参考:厚生労働省労働基準局監督課「知っておきたい働くときのルールについて」
妻の年収は?
ところで、昔から妻が働く場合、いくつかの「壁」の存在が言われてきました。税金や社会保険上の問題から、一定の収入を越えると手取り額が減ってしまうためです。例えば、「103万円の壁」や「150万円の壁」などが言われてきましたが*2、これらに注目しながら、妻の年収を見ていきたいと思います。
なお、「配偶者控除」も「配偶者特別控除」も配偶者の所得1,000万円以下が対象。このほか、一定の条件を満たす企業等で働く場合は社会保険料を納める必要が生じる「106万円の壁」や、条件を満たさない企業等でも国民年金や国民健康保険等に加入する必要が生じる「130万円の壁」もあります。
共働き世帯の妻の年収は、150万円未満が過半数で、夫の配偶者控除を意識して「壁」を超えずにパートタイムで働く妻のようです(図表5)。
一方、残り半数弱の「150万円の壁」を越えて働く妻の内訳は、年収300万円未満と年収300~700万円未満がそれぞれ2割程度で、年収700万円以上のパワーカップル妻は3%弱となっています。
図表4のパートタイムで働く妻の割合(57.9%)と比べて、図表5の年収150万円未満の割合(50.2%)は、やや少なくなっています。これは、労働時間は35時間未満には、正社員の時間短縮勤務で比較的年収が高い女性も含まれるためでしょう。
なお、過去をさかのぼっても、妻の労働時間(パートタイムとフルタイムの別)の分布は、さほど変化がありませんでした。一方で、年収で見ると150万円未満が少しずつ減っています(2013年54.6%→2018年50.2%、▲4.4%pt)。企業の制度環境の整備が進み、時間短縮勤務などを活用して、「壁」を越えて働く女性が少しずつ増えているようです。
夫の年収との関係は?
妻の働き方は、夫の年収とも密接な関わりがあります。最後に、共働き世帯の夫の年収の状況を見ていきましょう。
夫の年収別に妻の労働時間を見ると、300万円以上では、高年収であるほど、パートタイムで働く妻は増えます(図表6)。夫の収入が十分にあれば、妻は必ずしも高い収入を得る必要がないとも考えられます。または、夫が忙しいため、妻は家事・育児をするためにフルタイムでは働きにくいのかもしれません。
なお、年収300万円未満では、パートタイムで働く妻が比較的多いですが、これは高齢夫婦が多いためでしょう。
一方、夫婦の年収の関係を見ると、興味深い事実が見えます。夫が高年収であるほど、必ずしも年収150万円未満の妻が増えるわけではありません(図表7)。
夫の年収が300万円以上では、図表6のパートタイムの妻の割合に対して、妻の年収が150万円未満の割合が低い傾向があり、両者の差は夫の年収が高いほど広がっていきます。これは、前にも触れましたが、パートタイムには時短勤務の正社員も含まれるためです。夫が高年収であるほど、パートタイムと言っても、時短勤務の正社員の妻が増えるのでしょう。
また、「150万円の壁」を越えて働く妻を見ると、夫が高年収であるほど、高年収層が増える傾向があります。例えば、年収700万円以上の妻の割合は、夫の年収300~499万円未満で0.8%、500~699万円未満で1.5%、700~999万円未満で5.3%、1000万円以上で13.3%となっています。夫婦の年収は比例関係にもあるようです。
一方で、夫が高年収であるほど、専業主婦の妻が増える傾向もあります(総務省「労働力調査」)。つまり、夫が高年収であるほど、夫の高い経済力から専業主婦は増えるものの、共働きの場合は高年収の妻が増える傾向もあるのです。
*2 年収103万円を越えると所得税を納める必要が生じる。また、年収103万円未満であれば、その配偶者は満額38万円の所得控除が受けられるが(「配偶者控除」)、103万円を越えると「配偶者特別控除」へと切り替わる。150万円までは「配偶者控除」と同様、満額の控除が受けられるが、150万円を越えると年収に応じて控除額が減額され、201.6万円で0となる。以前は103万円超で控除額が減額されたが、2018年より150万円へと引き上げられた。
おわりに
「男女雇用機会均等法」が制定されて30年余り。第二次安倍政権の看板政策として「女性の活躍推進」政策が始まって、はや6年。都市部では、いまだに保育園の待機児童が解消しない中で、共働き世帯のうち過半数が「150万円の壁」を越えない妻という事実を意外に感じた方も多いのではないでしょうか。
結婚や出産とともに家庭を重視した働き方、つまり、「壁」を意識した働き方を選ぶのは個人の自由でしょう。一方で、本当は働きたいのにも関わらず、仕事と家庭の両立が難しいために、不本意ながら退職する女性も少なくありません。
現在「働き方改革」では、長時間労働の是正や、柔軟な働き方がしやすい環境整備としてテレワークや副業・兼業の推進が進められています。また、リカレント教育や再就職支援なども進められています。さらに、政府は、2020年度から国家公務員の男性職員に対して、原則1ヶ月以上の育児休業の取得を促す方針を打ち出しました。
1つ1つの政策が着実に進められることで、女性たちが希望通りの働き方ができるようになることに期待したいと思います。