2019年9月22日日曜日

遺伝子組み換えした蚊

繁殖を防ぐために遺伝子組み換えした蚊を野生に放ったところ、逆に野生種と混じってパワーアップした可能性(ブラジル)

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image credit:Pixabay

 暑い季節にやっかいな蚊だが、ただ血を吸って痒くさせるだけではない。危険な病原菌を媒介するために、小さいくせして地球上で一番人間を殺しているのだ。

 そんな蚊を撲滅しようと、子供を作れないように遺伝子を組み換えたオスを野生に放つというアイデアが提唱された(関連記事)。

 当時それは革新的と評されたのだが・・・ブラジルで実施された試験はどうやら失敗してしまったようだ。蚊を撲滅させるどころかパワーアップさせてしまった可能性があるという。

顕性致死遺伝子を組み込んだGM蚊による駆除実験の結果

 遺伝子を組み換えたオスを野生に放ち、繁殖できなくするというこのアイデアは確かなものに思われた。ネッタイシマカ(ヤブカ)のオスに顕性致死遺伝子を組み込み(GM蚊)、それを放す。

 するとそれらがメスと交尾しても通常に比べれば圧倒的に少ない数の子供しか生まれず、生まれたとしても弱くて長く生きることができない。
初期のテストでは、GM蚊が放たれた地域の蚊は最大85%削減された(関連記事)。そうなれば、蚊によって媒介されるデング熱や黄熱病、ジカ熱、マラリアといった病気も減少する。

 またGM蚊の子供は弱く、自らが繁殖できるようになる前に死んでしまう。そのためGM蚊の遺伝子が野生の遺伝子プールに混ざることもない。

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したがって、はっきりと確認できる影響は蚊の個体数の減少だけである・・・はずだったのだが残念ながら目論見は外れてしまった。

 ブラジル・ジャコビナはここ数年、GM蚊による駆除実験がもっとも大規模に行われてきた都市だ。

 その成果を米イェール大学の研究チームが調査したところ、実験開始から数ヶ月で個体数が戻ってしまったばかりでなく、一部の野生の個体がGM蚊の遺伝子を獲得していたことまで判明した。

 イェール大学のジェフリー・パウエル氏は

計画ではGM蚊の子供は死んでしまうので、放出されたGM蚊株が野生の個体に入り込むことはないはずだったのだが、そうなっていないことは明らかだ

と説明する。

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一時的に減少した個体数も実験開始から18ヶ月後には回復


 GM蚊株はオキシテック社によって開発され、米食品医薬品局から実験許可が与えられていたもの。

 ジャコビナでは、27ヶ月にわたり毎週45万匹、計数千万匹のGM蚊のオスが放たれていた。

 研究チームは解放前ならびに解放後、6・12・27・30ヶ月経過した時点でGM蚊と野生種のゲノムを調査。

 その結果、GM蚊の遺伝子が野生種に混ざっていることを示すはっきりとした証拠を見つけ出した。

 GM蚊から生まれる子供は3~4%程度でしかないが、それらは想定されていたほど弱くはなく、中には成虫になり繁殖した個体もいたらしかった。

 また実験開始後、一時的には蚊の個体数は減少していたが、それも18ヶ月後にはもとに戻ってしまっていた。

 研究チームは、その理由について、メスがGM蚊との交尾を避ける方法を学んだのかもしれないと推測している。

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野生種にGM蚊の遺伝子が混入して幅広い遺伝子プールが完成か

 さらに悪いことに、蚊を減少させるはずの実験が逆効果になってしまった可能性すらある。

 ジャコビナの蚊には今やもともとそこにいた蚊の遺伝子に加えて、GM蚊を作るために使われたキューバとメキシコの蚊の遺伝子が混ざっている。

 つまりそれだけ幅広い遺伝子プールが出来上がったわけで、全体として蚊はこれまでよりいっそう頑丈になったかもしれないのだ。

 研究チームは、これによって健康被害のリスクが高まったわけではないことを保証している。

 しかし、病気の伝染やその他の駆除法に与える影響は明確ではなく、まったく懸念がないわけでもない。

 パウエル氏は、


実験室内での実験なら、放たれたGM蚊の影響をかなり正確に予測できるだろう。しかし今回のような実験の場合、実験中や事後に予想外の出来事が起きていないか遺伝的な調査を行う必要がある

と説明している。

 この調査は『Scientific Reports』(9月10日付)に掲載された。

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