2019年11月3日日曜日

乗り物酔い

乗り物酔いは5億5000万年前から受け継がれる「正常な反応」かもしれない




オーストラリアのコヴェントリー大学に博士研究員として乗り物酔いに関して専門的な研究を行っているスペンサー・ソルター氏が「乗り物酔いは5億5000万年前のカンブリア紀に誕生したはるか昔の祖先から受け継いだ『正常な反応』」だと解説しています。

Motion sickness: it all started 550 million years ago
https://theconversation.com/motion-sickness-it-all-started-550-million-years-ago-121789

「乗り物酔い」の原理とは、視覚から得られる情報と、内耳から得られる情報の間に齟齬がある場合に発生します。車内だけ見ると、車が動いていたとしても視覚的には自分も周囲も静止しているように見えます。しかし、内耳にある前庭器官は「体が移動している」と知覚し続けているため、視覚と内耳が得た情報に食い違いが生じ、乗り物酔いになります。ソルター氏によると、「乗り物酔いを経験するということは、前庭器官が正常に機能しているといえます」とのこと。

乗り物酔いにかかるのは人間だけではありません。犬、猫、馬、ネズミなどの哺乳類や、魚類、両生類など多くの動物が乗り物酔いにかかるそうです。ソルター氏によると、乗り物酔いする動物の共通の祖先とは、ヌタウナギヤツメウナギとのこと。


しかし、ヌタウナギやヤツメウナギから進化した生物だけが乗り物酔いを起こすわけではありません。カニ、ロブスター、ザリガニなどの魚類から独立して進化した甲殻類も乗り物酔いにかかるという逸話があります。

ソルター氏によると、生物における乗り物酔いが始まったのは、約5億5000万年前のカンブリア爆発からである可能性があるとのこと。カンブリア爆発は、カンブリア紀に起きた生物の大量発生のことで、カンブリア爆発によって現代の動物の祖先が多数誕生しました。カンブリア紀には環境中のカルシウム濃度と酸素濃度が上昇したことがわかっており、それによって生物の平衡感覚が進化したとのこと。ソルター氏は「カンブリア爆発で生じた生物が進化する過程において、乗り物酔いには『利点』があったため、受け継がれた」と主張しています。

ソルター氏は、乗り物酔いの利点は「揺れを検知する」ことだと語っています。海面に生じる波は、海の中にまで震動を伝え、海洋生物に影響を与えます。研究によると、タイ科の一種は波が強い場所から移動するという性質があるとのこと。「魚が船酔いするのは、自分の体が危機にさらされていると自覚するためだと考えられます」とソルター氏は述べています。

陸上でも揺れが危険を教えてくれる場合があります。人類に近い祖先であるチンパンジーは、樹上性の生き物です。枝や幹の太さに応じて、「揺れる木」と「揺れない木」が存在します。ソルター氏は「揺れを検知する乗り物酔いというシステムによって、登ると危険が大きい『揺れる木』を避けるようになり、死のリスクが下がった可能性があります」と述べています。


ソルター氏は、「乗り物酔いは人類の祖先から続く正常な反応です」と述べ、「人類が馬や車、ボートなどに乗るようになったのは、人類史からみるとごく最近のことです。それゆえ、我々の感覚システムは新しい技術や環境に適応できていません」と語っています。

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