「ブルーシート」外国人に伝わらない? やさしい日本語で見えたこと
「レジャーシート」「一畳分の大きさ」は外国人に伝わるか
日本語に慣れていない人に、「本当に伝わるやさしいニュース」を目指して、外国出身の人と作る「やさしい日本語ニュース」。
今回「やさしい日本語」にしたのは、
「ブルーシートだらけの花見を変えたい 『畳柄レジャーシート』が話題」という記事です。
「畳柄のレジャーシート」が開発され、花見の時期によく見かけるブルーシートの代わりに使うと「風情があって良い」と、ツイッター上で話題になっている、という内容です花見の時期によく見かけるブルーシートの代わりに使うと「風情があって良い」と、。なるべくやさしい日本語にしましたが、意外な言葉が伝わりにくいことが分かりました。
まず、日本人記者が、感覚で「やさしい日本語」に翻訳した記事を、都内の介護施設で働くインドネシア人2人に見てもらいました。
来日9年目のプスピタさん(32)と、技能実習生として今年7月に日本に来たばかりのユダさん(27)です。
ユダさんの日本語学習歴は、インドネシアの専門学校でわずか6カ月だけと言います。でも「やさしい日本語」の記事を見せると、漢字にふりがなを振ってはいますが、すらすらと読んでいきます。意味もほとんど分かります。
「やさしい日本語、よめますよ」とユダさん(左)とプスピタさん
ところがユダさんは「シート」の前でかたまってしまいました。
プスピタさんは「日本語を勉強していても、カタカナを読むのは苦手な人が多いです。私も苦手です」と解説してくれました。
記者が「しーと」と読み上げました。それでも、ユダさんの顔は晴れません。
プスピタさんがインドネシア語で「敷物(ティカル)」と訳して伝えると、うなづきました。
「シート」なら外来語だから、きっと外国人には分かりやすい言葉だろうと思っていました。
でも、そもそも「外来語」って、どこから来た言葉なのか、考えずに使っていました。シートは英語が由来。インドネシアの人にとって、「シート」が分かりやすいわけではない、と気づきました。
この畳シートの大きさについて、元の原稿は「大きさは京間1畳と同じ」となっていました。
私はもっとシンプルに「畳ひとつと同じぐらいの大きさ」と訳しました。
でも、ユダさんは「畳ひとつって、とても小さいですよね」と驚きます。
どういうこと? ユダさんの頭にある畳のイメージを聞いてみると、「私が働く介護施設のおばあちゃんが、よく座っている椅子に敷いてありますよ。畳」。よく聞くと、畳のような座布団でした。
確かに、日本でも和室を見る機会は減っています。和室を見たことがあるとしても、そこにある畳が一つ一つ分解できて、どんな大きさかをすぐに頭に浮かべるなんて難しい、そう考えれば、分かります。
いかに自分の想像力が「常識」に縛られていたのかを痛感しました。
「風情がある」という言葉は、やさしい日本語で「日本らしい」と訳しました。
これが、一番伝えにくいと予想していましたが、ブルーシートで一杯の花見の写真を見せたとき、ユダさんは「確かに、これだと残念ですね……。畳だと日本らしいです」と感想を漏らしました。
意外! 「日本らしい」という感覚が最もすんなりと伝わりました。
花見はまだ経験したことがないというユダさん。
でも、漫画や日本映画を通して日本らしさについて学び、期待を膨らませて来日したようです。「来年の春には、ぜひ、花見がしたいです。桜、憧れています」とにっこりしてくれました。
プスピタさんは「おすすめは新宿御苑」とアドバイスします。なんで?と聞くと「上野の花見はちょっと……お酒くさかったです。もちろん、それも日本の伝統だと理解しています。でも、私は新宿の方が落ち着きます」。イスラム教徒のプスピタさんは、日本の事情も尊重した上で、話してくれました。
カタカナ語は外国人にとってわかりやすいものではありません。その理由は、1)和製英語(英語に存在しない言葉)が多い、2)発音が原語から離れているなどです。
例えば「アイドリング・ストップ」は、英語では”No idling”。
「ランニング」は5単位(5拍)で発音するのに、英語の”running”[rʌniŋ]は2単位(2音節)で発音するため、カタカナ語からだと原語の発音が想像できません。
カタカナ語だらけの文章は、日本語に慣れた人にもわかりにくいものです。使う前に、原語での意味で使われているか調べて、自信が持てないときは使わないようにしましょう。外国人だけでなく、日本人にもやさしい文章になるはずです。
◆庵功雄(いおり・いさお)さん:一橋大学国際教育交流センター教授。日本語教育の専門家。主な著書に『やさしい日本語――多文化共生社会へ』(岩波新書)、『<やさしい日本語>と多文化共生』(ココ出版・共編著)など。
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