コンビニ業界全体で、24時間営業の見直しが進められている。
背景には、2019年2月、大手コンビニ・セブン-イレブンとフランチャイズ(FC)契約を結ぶ東大阪南上小阪店(大阪府東大阪市)が、人手不足と過酷な勤務状態を理由に独断で24時間営業を取り止めて本部と対立した問題があった。
10月21日、セブン-イレブンは深夜休業を希望するオーナー向けに「深夜休業ガイドライン」を制定することを発表。さらに11月14日には、これまで約600のFC店で時短営業の実証実験を行ってきたファミリーマートが来年3月から時短営業を容認すると発表している。これによって、先んじて時短営業を実施していたローソンと合わせて、大手コンビニ3社の時短営業方針が出揃うこととなった。
大きな変革期の真っ只中にあるコンビニ業界だが、コンビニの脱・24時間営業化の裏にはどのような事情があり、今後どのように変わっていくのだろうか。『感じる経済学 コンビニでコーヒーが成功して、ドーナツがダメな理由』(SBクリエイティブ)などの著作で知られる経済評論家・加谷珪一氏に解説してもらった。
加谷 珪一(かや・けいいち)/経済評論家大学卒業後、日経BP社記者を経て、野村グループの投資ファンド運用会社で、企業評価や投資業務を担当。2000年に独立し、中央省庁や政府系金融機関に対するコンサルティング業務に従事している。著書に『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
オフィシャルサイト:加谷珪一の分かりやすい話
コンビニ大手3社の社風が現れたFC店の時短化
これは大手コンビニ3社に言えることだが、そもそも時短営業を実施することで売上減少のリスクは避けられないはずだ。それにもかかわらず、各社とも時短営業を容認する理由は何だろうか。
「時短営業を容認しなければ、もはやFC加盟店がついてきてくれない状態になったため、各社とも必要に迫られてやむを得ず時短営業に踏み切ったのだと考えられます。
その要因は2つ。ひとつは売上の低調です。コンビニはここ20年ほど負け知らずの業界で、スーパーなどほかの業界から利用者を奪って売上を伸ばしていましたが、近年は頭打ちになっていました。そのため、『売上が伸びるなら』と苦しい経営環境を耐えていたFC加盟店のオーナーが我慢の限界を迎えてしまったわけです。
もうひとつの要因は、人件費の高騰です。売上が伸びていればその分でカバーできますが、伸び悩んでいる現状ではアルバイト代だけが上がって利益が落ち、FC加盟店の経営を圧迫する原因となっていたのでしょう」(加谷氏)
コンビニの時短営業化は、業界全体の存続を考えた上での施策ということだろうか。その上で、大手3社で異なる時短営業方針には「各社の社風が表れています」と加谷氏は語る。
「セブン-イレブンの時短営業は、23時~翌日7時までの最長8時間で、毎日決まった時間に休業するという規則が設けられています。
ファミリーマートは、23時~翌日7時の最長8時間の休業を毎日実施するか、日曜日のみ実施するか、FC加盟店が選択する形になりました。
一方で、ローソンは、時短営業の曜日や時間について決まった規定はなく、FC店のオーナーに委ねられています。
ファミリーマートは、23時~翌日7時の最長8時間の休業を毎日実施するか、日曜日のみ実施するか、FC加盟店が選択する形になりました。
一方で、ローソンは、時短営業の曜日や時間について決まった規定はなく、FC店のオーナーに委ねられています。
この3社を比較すると、セブン-イレブンは他の2社と比べて柔軟性に乏しい方針となっています。これは、セブン-イレブンがこれまでFC加盟店に対して厳格な態度を取ってきたことの裏返しでもあります。FC店ごとの要望・要因で営業時間を変えるとイレギュラーが発生して物流の効率が落ちるといった問題が発生するので、セブン-イレブンとしてはそういったリスクを抑えたいのだと思います」(加谷氏)
各社が時短営業容認に踏み切ったことで、24時間の営業をしない店舗がこれから続々と増えていくことが考えられる。大手3社は、脱・24時間営業後のプランニングをどのように考えているのだろうか。
「各社ともに、まだ手探りの状態ではないでしょうか。というのも現在、コンビニ業界は売上を伸ばすためにスーパーの顧客を――たとえば、生鮮食品を購入するような主婦層を取り込むべく、業界全体が方策を練っている最中にあるからです。
少子化が進み人口増加も見込めない中、これまでコンビニがメインターゲットとしてきた単身男性客を相手にしているだけでは売り上げ増は見込めず、今後は主婦層を取り込まなければ業界全体としても伸びることはありません。とはいえ、主婦層をターゲットとした業態としてはドラッグストアやスーパーといった競合がいるので、コンビニ各社は試行錯誤をしながら苦心しているという印象があります」(加谷氏)
黙認されてきたFC加盟店の過酷な実態
時代の流れを受けて、大きな変革期を迎えているコンビニ業界。消費者もまた、これまでの買い物スタイルを見直す良い機会なのかもしれない。
「消費者からすれば、いつ行っても開いている店のほうが安心感はあるので、時短営業に踏み切った店舗からはある程度客足も遠のくとは思いますが、これは避けられない問題でしょう。
時短営業を実施する店舗が増えることで、消費者も不便な思いをすることにはなりますが、これからはしっかりとスケジュールを立てて買い物をするといったように、消費者としても生活リズムを変えていかなければならないのかもしれません」(加谷氏)
コンビニ時短営業方針の決定によって最も恩恵を受けるのはFC加盟店であることに間違いはないが、コンビニ本部とFC加盟店の対立は、今年2月にセブン-イレブン東大阪南上小阪店の問題が表面化する以前から指摘されていたという。
「コンビニ業界においては、本部からFC加盟店への圧力は、かなり昔から問題になっていました。しかし、消費者の間でコンビニのビジネスを絶賛する風潮があったため、メディアでもコンビニの経営方針を批判しにくく、これまではFC加盟店の過酷な労働実態が黙認されてきたようなところがありました。
しかし、ここ数年のコンビニ経営不振や人手不足でFC加盟店がさらなる危機的な状況に追い込まれたこと、またそうした実態がインターネットの普及によって知られるようになったことから、一気に問題が表面化することになりました。
これまで、本部の命令は絶対でFC加盟店の側からの要望は通らないという不均衡な関係性が続いてきたことを考えると、FC加盟店側からの時短営業の要望が通ったことは、劇的な変化と言えます。今後、本部とFC加盟店の関係はさらに変わっていくのではないでしょうか」(加谷氏)
コンビニの時短営業は長年苦労を強いられてきたFC加盟店にとっては救いの手と言えるだろう。コンビニ業界の労働環境が健全化しつつあるとも捉えられるだろう。
そう、見方を変えれば、これまでの365日・24時間営業というコンビニの利便性が異常だったとも考えられる。いずれにしても、この“コンビニ時短改革”の流れによって、業界が柔軟な在り方を見つけ、より良き方向に進むことを期待したい。
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