2019年12月8日日曜日

それ、デート商法じゃない?

それ、デート商法じゃない? 「モテ期」は疑ったほうがいい


 SNSなどで、見知らぬ異性からなれなれしく「今度会おうよ!」などと書き込まれたら要注意だ。それは、罠かもしれない。
 恋愛感情や見栄を悪用して商材を売ったり会員登録させたりする「デート商法」や「恋人商法」は以前からあった。この「デート商法」がにわかに再注目されたのは、今年の5月に都内の20代女性が東京地裁に起こした訴訟だったろう。後述するが、銀行員がデート商法に加担して不正融資をしていたのだ。
 すでにデート商法は社会的に大きな問題となっており、3月には独立行政法人国民生活センターがデート商法を疑似体験できる動画を公開して注意喚起していた。6月に一部改正された消費者契約法には、デート商法による契約を取り消すことができる条項が盛り込まれた。
 われわれはデート商法の被害からどのように身を守ればいいのか。SNSやマッチングサイト・婚活サイトの「出会い」をどう見極めていくか、考えたい。

デート商法の定番商材は絵画や宝石、投資

 デート商法は、男性が女性にしかける場合もあれば、その逆もある。異性への恋愛感情や見栄を利用して、商品やサービスを法外な値段で売りつけたり、お金だけ支払わせて商品やサービスを提供しないなどの悪質な商法だ。
 まずは婚活パーティーなどのイベントを利用して異性に近づき、デートに誘ったり頻繁に連絡を取り合ったりすることで、ターゲットに親密さが増したと錯覚させたり、恋愛関係にあると思い込ませる。
 ターゲットがそういった心理状態になったところを見計らって、高額な商品の購入を持ちかけたり、投資の話を持ち出したりするのだ。するとターゲットは、冷静なときであれば断れた話であるにもかかわらず、恋愛感情を持っているがゆえに、断ったら相手に嫌われるのではないか、馬鹿にされるのではないか、裏切られたと感じさせてしまうのではないか、失望させてしまうのではないか――などと感じたり、あるいは相手のことを信じたいといった気持ちが働いたりして、相手の意のままに契約してしまう可能性が高まる。
 以前は、何らかの方法で手に入れたリストをもとに電話をかけてアプローチしたり、婚活パーティーなどのイベントでターゲットに近づいたりしたが、近年はSNSや婚活アプリ、マッチングサイトなどネットが利用できるようになったため、被害が拡大していると考えられる。
デート商法で持ちかけられる商材はさまざまだが、主に次のようものがある。
●芸術品 絵画などの芸術作品は、素人には相場がわかりにくいため、高額でも「そんなものか」と思わされてしまう。「この作品は滅多に手に入らない」、あるいは「特別な作品だから、大切な人に飾って欲しいの」などとアプローチしてくるようだ。
●宝飾品
 これも芸術品と同様、相場がわかりにくい。ターゲットが女性なら、「僕が君のために特別にデザインしたんだ」、男性がターゲットなら、「2人の将来を真剣に考えてくれている証が欲しいの」などと甘い言葉をかけてくることもあるだろう。
●不動産投資
 近年、被害金額が大きいことで特に問題視されているのが不動産投資だ。誰もが持っている将来の経済的な不安を突き、不労所得を得たいという気持ちにも訴えかけてくる。そこに結婚を匂わせて、「二人の将来のことも考えて」とターゲットをそそのかす。

報道されたデート商法の例

  過去の報道から、デート商法の具体例を見ていこう。
●銀行マンが関わったデート商法 まず、冒頭で取り上げた、銀行がデート商法に加担したとして訴えられた事件だ。主に20代の若者たちが被害者となった。被害金額は200万円~700万円と大きい。
  このデート商法は次のような手法だった。ある被害者の女性は、婚活アプリで知り合った男性から投資話を持ちかけられた。男性は投資に詳しいという別の男性と共に、女性に新規事業への投資を持ちかける。
 お金がないという女性に銀行員を引き合わせると、実際の女性の年収を数倍に見立てて融資の審査を通し、無担保ローンを組ませた。女性は有名な銀行の銀行員が立ち会ったことで、この話を信じた。
 被害者女性は、銀行員の指示に従って、話を持ちかけた男性の口座に融資を直接振り込ませてしまった。そして男性らは、その金を持って消息を絶ったというものだ。
●高額ネックレスを販売
 こちらもマッチングアプリで知り合った女性をターゲットにしている。特定商取引法違反(目的隠匿勧誘など)で逮捕されたのは宝石販売店の責任者と従業員の3人。2017年の6月から2018年の7月にかけて約200人の女性が計9000万円以上の被害を受けたとみられている。マッチングアプリで知り合った女性たちをデートに誘い出し、「本来は80万円だけど、特別に半額にする」などと言って宝飾品を売りつけていた。
●数万円のジュエリーを数十万円で買わせる
 2018年11月8日に、ジュエリーの訪問販売会社の代表者と社員、派遣社員、アルバイトらが特定商取引法違反(目的隠匿型誘引行為など)で逮捕された。やはりマッチングアプリでターゲットにした女性とメッセージを重ねて安心させ、実際に会って店に連れて行くパターンだ。
 しかも、一度落ちたターゲットとは、その後も交際を続けて信頼関係を築き、より高額な商品をローンを組ませて購入させていた。
●投資用マンションを無免許で販売
 2016年5月19日、警視庁は、無免許で投資用マンションの売買契約を仲介した男3人を宅建業法違反容疑で逮捕したことを発表した。逮捕されたのは不動産会社の元実質経営者とその社員だ。この事件でも婚活サイトが悪用されている。婚活サイトで知り合った女性に、投資マンションのオーナーになることで家賃収入が得られると勧誘していた。
 ターゲットになった女性には一流企業の社員が多く、年収は800万円から1000万円クラスだったという。このようにターゲットを絞っていたのは、ローンの審査が通りやすいためだ。
 投資させた物件は実在するものだったようだが、1件あたり2700万円程度の物件を購入させて、数百万円を中抜きしていたという。
●肉体関係まで持って高額ソフトを売りつける
 まだある。2013年5月28日、大阪府警は大阪市のソフトウエア販売会社社長ら男女13人を詐欺と特定商取引法違反(不実告知)の疑いで逮捕した。こちらはSNSを利用して知り合った男女をデートに誘い出し、事務所に連れて行くと「必ず儲かる」と言って100万円近い高額な株式やFXの自動売買ソフトなどを売っていた。
 こちらも突然買わせるのではなく、デートを重ねて恋愛感情を抱かせたところで契約に持ち込んでいた。逮捕されたのは美男美女揃いで、中には肉体関係まで持っていた者もいたという。特に狙われたターゲットは20代の看護師だった。

デート商法のやり口の基本

 恋愛とデート商法とは違う。もし、知り合った異性が、以下のようなそぶりを見せたら要注意だ。
●出会い
 リストをもとに電話でアポを取る方法は減り、近年はほぼネット経由でのアプローチ。多くは婚活アプリやマッチングサイト、そしてSNSだ。
 これらは利用時にプロフィールを登録するため、デート商法を仕掛ける側からすれば、予めターゲットの属性を絞りやすい。また、ターゲットの趣味や仕事など距離感を縮めるための話題を準備しておくことも容易だ。
 出会いの段階で相手がデート商法を仕掛けてきているのかどうかは、判断が難しい。性急に会いたがる場合は怪しいのだが、本当に相性が良くて話がとんとん拍子に運ぶ場合もあるだろう。
●デートを重ねて信頼感や恋愛感情を持たせる
 一度会うと、相手はターゲットの信頼感や恋愛感情を得るために、デートを重ねて距離感を縮めてくる。場合によっては、肉体関係に発展することまである。ターゲットが心を許し馴れ合いの関係になってくると、年収や資産について聞き出そうとし、この段階で商品に関する興味を持たせようと誘導してくることも多い。
 たとえば、将来のために資産運用が大切であるとか、おそろいの指輪が欲しいね、などといった話が出始める。特に宝飾品や不動産の購入に誘導するために、結婚を匂わせることも増えてくる。
●店舗や事務所に連れ込む
 ターゲットが商品に興味を持ったり、結婚を前提とした態度を示したりするようになると、「上司や世話になっている人がいる」などと言って、店舗や事務所に誘い込む。
 そこで商品の購入や契約を勧め、購入するまでターゲットを説得する。場合によっては、上司を名乗る人物などの第三者が登場して購入や契約を後押しする。
 以前なら購入や契約が済めば突然、詐欺師はターゲットの前から消え去り音信不通になったのだが、近年はより巧妙になり、しばらくは恋人の関係を持ち続ける。それは、後述するクーリング・オフを使わせないためだ。
●しばらく関係が続く
 ターゲットに商品を購入させたり契約させたりするといった目的を果たしても、しばらくの間は関係を続けることが多い。そのため、ターゲットはすぐには騙されたことに気づかないのだ。
 これは訪問販売(アポイントメントセール含む)で認められているクーリング・オフをターゲットが利用しないようにしている。クーリング・オフとは、契約から一定期間内であれば一方的な意思表示のみで申し込みの撤回や契約の解除ができる制度だ。
 一定の期間とは、商品や販売方法などにより異なる。たとえばキャッチセールス、アポイントメントセールスといった訪問販売などは8日間、マルチ商法の場合は20日間、宅地建物取引が8日間(クーリングオフの説明を受けてから)といった具合だ。このように近年のデート商法は念が入っている。

国民生活センターが恋愛ゲーム動画でシミュレーション

 デート商法の被害者が急増していることを受け、国民生活センターが今年の3月7日に、注意喚起のための恋愛ゲーム型の動画を公開。
 この動画『デート商法を恋愛ゲームで体験!』は、国民生活センターのサイトで観ることができる。概略を説明すると、20歳の男子大学生がSNSで知り合った女性と会うことになる。
 デートして仲良くなった2人は、女性の仕事場に行く。そこで女性が高額なアクセサリーを買って欲しいと言うのだ。そこから先は、視聴者が3つの選択肢から対応を選ぶ。選択によって、それぞれ異なる結末が待っているという趣向だ。
 国民生活センターがこの動画を公開した背景には、2022年の民法改正で成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることにより、デート商法の被害が拡大することを防ぎたいということがあるようだ。

怪しいと思ったら記録を残して相談する

 それでは、デート商法の被害に遭ってしまったと気づいたらどうすれば良いのか。まずは、クーリング・オフ制度を利用できるかどうか検討することだ。もし、投資用マンションなどの手付金を払ってクーリング・オフの期間を過ぎてしまってから気づいた場合は、手付解除を行う手もある。手付金を放棄することで契約を解除するのだ。
 すでに物件の引き渡しが完了してしまった場合は、もはやこの手段も使えない。その場合は、裁判に持ち込むことになる。
 前述したように、今年6月15日に施行された消費者契約法には、デート商法による契約を取り消すことができる条項が盛り込まれた。消費者契約法第4条第3項第4号に下記の通り記されている。
 “当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。”
 ただし、この改正でデート商法の被害者がすべて救済されるようになるとは限らない。というのも、条文中の「社会生活上の経験の乏しさ」や「当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻する旨を告げたこと」の立証は難しいためだ。
 特に社会経験の乏しさなど、境界線がわかりにくい。学生であるとか、恋愛経験がないとかもひとつの基準になるかもしれないが、いくつか恋愛を経てきた社会人でも騙されるときは騙されるだろう。この部分に関しては、今後の判例次第ということになる。
 デート商法に引っかかったと感じたら、やはり一人で悶々とするよりも、専門機関に相談することが必要だ。その際、可能な限り状況を伝えられる情報を集めておきたい。たとえばメッセージアプリやメールの記録、婚活サイトやマッチングアプリ上の相手のプロフィール、紹介された業者とのやりとりの記録、契約書や業者の所在地や連絡先、ホームページのURLなどだ。途中から怪しいと思って録音した音源もあればなお良い。
 相談先としては、消費者庁が設置している「消費者ホットライン」で、局番なしの「188」に電話すればよい。次に、国が設立した法的トラブル解決の総合案内所として「法テラス」がある。電話とメールで受け付けている。
 すでに顧問弁護士がいる場合は、直接相談すれば迅速に対応してくれるだろう。とにかく、一人で悩まずに、相談することが大切だ。

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