2019年12月18日水曜日

相次ぐ保育士の一斉退職

相次ぐ保育士の一斉退職 幼保無償化も入園できなければ意味がない


 静岡市浜松市の私立認可保育園・メロディー保育園の保育士17人と栄養士1人が今月11日、園長らからのハラスメントを理由に一斉に退職届を提出した。
 保育士らが今月11日付で出した保護者宛ての文書には、「園長や専務から子どもや保護者の前で罵倒される」「会議の場でつわりは病気じゃないから休むのはおかしいと批判する」などの被害が書かれていたという。
 保育士らは、今年8月に園長に相談したほか、労働基準監督署や弁護士にも相談したが、状況は変わらず、今月28日に退職する意向を固めた。
 保育園が開いた14日の保護者説明会では、同園の園長ら役員の退任、浜松市内の別企業が同園の運営を引き継ぐことが発表された。新運営陣は、退職届を提出した18人に慰留を呼び掛け、また新たな保育士も募集しているが、来年1月以降の同園の状況については先行き不透明。園長と副園長は涙を流しながら土下座で謝罪したそうだ。

相次ぐ保育士の一斉退職

 保育園に勤務する保育士らの一斉退職が報じられるのは、これがはじめてではない。昨年10月、東京都世田谷区内の企業主導型保育所・上北沢駅前保育園と下高井戸駅前保育園では、保育士、調理師、栄養士ら職員計18人が一斉に退職。上北沢駅前保育園は翌月から休園となった。
 今年11月15日の東京新聞朝刊によると、このような一斉退職は相次いでいるという。
 同紙が東京都23区の区役所に電話とメールでアンケートを実施したところ、2018年度末前後に保育士が5人以上退職した園は17カ所もあったといい、そのうち3割以上の保育士が退職した園は10カ所、半数以上の保育士が退職した園は4カ所だった。中には、10人中8人が退職している園もある。
 保育士の一斉退職により保育園が閉園の危機に晒された時、その保育園を利用している子どもや保護者たちは、不安を抱え不便を強いられる。保育園に通っている子どもたちは0~6歳の未就学児で、保護者たちの多くは仕事をしているか、介護や闘病など事情を抱えている。保育園の閉園は、死活問題だ。
 閉園するとなれば、保護者は子どもの転園先を探さなければならない。しかし待機児童問題は依然として残っており、特に待機児童の多い地域は年度途中に空きを見つけるのは至難の業だろう。
 もしも転園先が見つからず子どもが待機児童となり、仕事を退職するとなれば、生活に大きな影響が出る。今年10月から開始された幼児教育・保育の無償化(以下、幼保無償化)も、保育園に入れなければ意味がない。
 また当然のことながら、園児の心理面にも負担がかかることが心配される。

保育士の待遇は改善されたのか?

 今回浜松市の私立認可保育園で起こった保育士らの一斉退職はハラスメントが大きな理由であったが、待遇の悪さから退職する保育士の多さは、以前から問題視されている。
 平成28年「賃金構造基本統計調査」によると、保育士の「きまって給与する現金給与額」は月平均22万3300円で、全職種の平均33万4000円を10万円以上も下回っている。
 保育士資格を持ちながら保育士として働いていない「潜在保育士」はかなりの数に上るといい、厚生労働省「保育士等に関する関係資料」によれば、全国の保育士登録者数が約119万人だが、実際に保育士として勤務しているのは約43万人だ。
 今年10月にいよいよ開始した幼児教育・保育の無償化(以下、幼保無償化)についても保育士たちからは反対意見が多い。昨年4月に株式会社ウェルクスが発表したアンケート調査によると、アンケートに回答した保育士・幼稚園教諭の有資格者の67.1%が「幼保無償化に反対」だとしている。
 反対理由は、「業務負担の増加(74.0%)」、「保育の質低下(69.7%)」、「待機児童の増加(51.1%)」。一方で、「幼保無償化よりも必要なことは何か」を尋ねる設問では、「保育士の確保」(82.8%)が最多と、保育現場の保育士不足を痛感していることが窺える。
 政府も保育士の悲惨な現状を把握してはいる。「2019年度は保育士の給与を約1%改善」「技能・経験に応じて月額5千円から4万円の給与改善をする」など動きをみせているが、そもそもの給与が低いため、改善策が離職防止の効果を発揮しているとは言い難いのではないか。
 現状では保育士もつらい、親子もつらい。保育士のさらなる待遇改善は急務だ。

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